高度だからこそやりがいがある要約筆記とは何か?現場レポート

私は「要約筆記奉仕員」として活動してます。

「要約筆記の派遣」これは非常に高度でいつも完璧にはいかない難しいもの。

事前準備も必要だし、当日作業開始までの時間にどう情報を入手するかなど、それ故に終わったときの充実感はなんともいえず、とてもやりがいのあるものです。

今回はある大規模な式典での派遣についてお話します。

(「要約筆記」には守秘義務があり、具体的な派遣内容を公表してはいけないことになっていますので、場所や参加者等が特定されない形で書いています。)

この式典は大変素晴らしいもので、派遣として対応した私たち4人もとても充実した1日でした。

要約筆記派遣 現場レポート

要約筆記の準備作業

今回の派遣は公開されている大規模な式典での派遣でした。それ故に十分な準備が必要です。

当日は1時間くらい前に会場に入って準備を行います。

◉主催者との打ち合わせ
・前日に会場で主催者と打ち合わせして、要約筆記する机の配置、文字表示するスクリーンの設置場所を確認。

・事前情報を増やすために資料をいただく。

 
この準備期間にいかに情報を入手して、単語登録したり前ロールを作成するかが重要です。

◉会場準備


要約筆記を行う机スクリーンの配置

◉前ロール作成
司会者や話者が話す原稿が入手できた分は文字起こしをして、前ロールを作成。

◉終了後の片付け
会場閉館の時間があるため、派遣が終了すると急いで片付けを行う。

要約筆記開始

現場レポート(原稿と違う)

式典が始まり、話者が話し始めましたが、事前にいただいた原稿通りではない人がいました。(あるあるです。)

前ロールを1行表出しては手入力で追加して、また前ロールを表出したり、原稿通りかと思えば話しが前後していて、あわてて話している内容を前ロールから探してみたりと、慌ただしいものでした。

※前ロールとは、原稿をもとに事前に作成しておくテキストのこと

現場レポート(入力が追いつかない)

またある方は、原稿がなく話すスピードが早くて入力が追いつけなかったり、そんな時は話しの前後がつながるように短く要約して表出します。(基本的にはなし言葉をそのまま表出はしません、要約して表出してます)

聴覚障害者が参加してる事が予め分かっている会の場合には、話者は考慮してゆっくりめに話してくれます。

今回のような式典の場合は話者は普通の速度で話します。

要約しても追いつけない時はあきらめて(ごめんなさい)、次の言葉から入力を続ける場合もあります。話者が話しているのにスクリーンが空白だとおかしいのでもう全集中して急いで表出。

現場レポート(漢字が出ない)

対談の場面では歴史の偉人の名前が出てきて、単語登録してない漢字が出てきた時は、変換を繰り返してやっと表出(汗)、話者が歴史の偉人の子孫の場合には歴史を勉強していく必要もあります。

漢字を間違えて表出した時は、仲間が訂正してくれますが、表出した後訂正するのはあまり見た目はよくないです。

現場レポート(漢字を間違えてスクリーンに出す)

間違えたまま表出して流れていった時もありました。(あってはいけない事ですが毎回完璧にはいきません)

現場レポート(歌詞は前ロール通り)

時々、歌が入って歌詞はそのまま前ロールで表出できるので、その時は少し落ち着いて次に備えます。

終わったところをチェックして、ついに閉会の挨拶。(前ロール通りでした)

現場レポート(参加者の感想)

挨拶は温かいお言葉でした(大きな拍手が)

終わりました!(大汗;)

 
今回は、反省するところがたくさんありました。

会が終わり、片付けをしていた時、参加していた女性が近づいてきて、こんなことを言いました。

「閉会の挨拶が感動的でした。スクリーンに表示された言葉を記録していたら、教えていただけますか?」

要約筆記では、スクリーンに表示された文字を記録することは禁止されています。
そのため、「申し訳ありませんが、記録はしておりません。主催者が記録している可能性がありますので、お尋ねください」と答えました。

母もこの会に参加していました。(後から参加したと聞きました。)

「本当に参加してよかった。レベルの高い式典で、心の栄養になったね。」と友人と話していたそうです。

本当に素晴らしい会でした。

現場レポート(反省と安堵)

ただ、派遣として参加すると、「早く、正しく、読みやすく」情報を伝えることに集中するため、楽しむ余裕はありません。
毎回完璧にできるわけではなく、終わった後はいつも反省しています。

現場レポート(主催者などからの感謝の言葉)

それほど難しい作業ですが、終わった後に主催者から感謝されたり、聴覚障害者でない人からも「スクリーンに文字が出ると、話の内容が分かりやすくていいですね」と言われることもあり、嬉しい瞬間も多いです。

 
この感謝される言葉に救われます。

要約筆記について

要約筆記とは

話し手の話の内容をつかみ、それを文字にして伝える、聴覚障害者のためのコミュニケーションの保障です。1960年代に考案され、現在は手話通訳と同様に福祉サービスとして行われています。

(全要研のサイトより)

要約筆記の種類
「パソコン要約筆記」と「手書き要約筆記」(私は「パソコン要約筆記」)

表示方法
「全体投影」と「ノートテイク」

パソコンか手書きの文字を「全体投影」の場合はスクリーンに表示し、「ノートテイク」の場合は、パソコンの文字を直接、聴覚障害者に見てもらいます。

パソコン要約筆記には、「IPtalk」というアプリを使用します。

要約筆記の活動は、自治体に登録して依頼を受けて行います。自治体から派遣料(時給)も支払われます。

「要約筆記者養成講座」を受講し修了し自治体に「要約筆記奉仕員」として登録出来ます。

その翌年の2月に行われる「全国統一要約筆記者認定試験」に合格した人は、「要約筆記者」となります。

「要約筆記奉仕員」でも「要約筆記者」でも講座が終了し、自治体に登録すると同じように活動ができます。

IPtalkとは

パソコンを使い、リアルタイムに文字を入力したり、事前に準備した文章を表示することで、聞こえに障害のある方のコミュニケーションを助ける情報保障( パソコン文字通訳、パソコン要約筆記、PCテイク など)用のソフトです。

IPtalkは、栗田 茂明(くりた しげあき)さんという方が作成し、1999年から無料で配布しています。

現在は、NPO法人日本遠隔コミュニケーション支援協会理事長をされていて、数々の章も受賞されています。

まとめ

要約筆記の事前準備

・当日の会場準備(机やスクリーン、パソコン設定)、前日準備が必要場合もあり。

・資料を入手し、前ロールの作成、漢字の登録、タイムテーブルの作成等。

・資料より話者がどのような方か、よく調べておく必要がある。

要約筆記の派遣現場

・話し方が早くて追いつけない時もある。(要約して表出)

・事前情報にない難しい漢字が出てきた時に、漢字変換に時間がかかり表出に手間取るときがある。

感謝される

主催者や参加者から感謝されることがある。(うまくいかなかった時でもこの言葉で救われます。)

やりがいがある

話者の話に追いつくタイピングスピードと、要約する技術、漢字を間違えないで表出するなど、高度な技術が必要となるが、それ故に終わった後は充実感がある

 
要約筆記には年齢制限もないので、ずっと続けていきたいと思います。